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3-12 矯正治療は三百六十五歩のマーチ

- まるで人生のような矯正治療 -

三百六十五歩のマーチ、言わずと知れた水前寺清子さんの代表曲です。昭和43年(1968年)の曲ですので、子供達には馴染みがないと思いきや、そうでもないようです。『こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE 〜勝どき橋を封鎖せよ!〜(2011年)』の主題歌として、SMAPの香取慎吾さんが歌っていたからです。とても前向きな歌で、私も大好きです。『一日一歩 三日で三歩 三歩進んで 二歩さがる』という部分を特に気に入っていて、ついつい口ずさんでしまいます。実は、この部分の歌詞が、矯正治療にとても当てはまるのです。

例えば、いわゆる"床矯正"と言われる矯正装置は取り外しができて、歯列を横に拡大することが可能です。装着している間は、歯列を拡げることができますが、外している間は、拡大された状態が維持されているわけではありません。1日1mm拡大できると仮定した場合、3日装着で3mm拡大するが、その後2日外せば2mm戻ってしまう可能性があります#1。『一日一ミリ 三日で三ミリ 三ミリ動いて 二ミリ戻る』と歌詞にできそうで、元歌にぴったりです。

顎間ゴムと呼ばれる、エッジワイズ装置に引っかける輪ゴムがあります。上顎前突や下顎前突の場合は、前後的な不正の改善に用います。開咬では、噛み合っていない前歯部に用いて、前歯が閉じるようにします。例えば、1日中(24時間)使用するように指示されていたが、12時間は頑張れたとしましょう。使用した12時間でも、ある程度効果が期待できます。しかし、1日の内、使用していない残りの12時間で元に戻れば、効果はゼロです。この場合を歩に喩えると、『三歩進んで 三歩さがって 元の場所』。つまり、12時間も使用したのに、全くゴムをしなかった場合と同じになってしまう可能性があるのです。自分自身は頑張ったという自覚があるにも関わらず、全くゴムをしなかったとドクターから見なされたら、とても辛いですよね。ドクターの指示をきっちりと守ることが、いかに大事かお分かりいただけたと思います。

矯正治療の中には、顎間ゴムをしないことで、効果が期待できないだけでなく、むしろ悪化してしまうような治療も存在します。顎間ゴムを使用しなくても治療の進行が遅くなるだけで、まさか歯並びが悪化するとは、ほとんどの人が思っていないとおもいますが、現実には、そのまさかが存在します#2。歩に喩えると、『三歩進んで 四歩さがって まさかの後退』という場合です。人生には、『上り坂、下り坂、そして まさか』という三つの坂があるとはいいますが、矯正治療にも三つの坂が存在します。ドクターの指示をきっちり守り、治療が順調に進んで行く、『上り坂』。モチベーションが下がり、治療がなかなか進まない、『下り坂』。治療中なのに、歯並びが悪化してしまう、『まさか』。矯正治療は、まるで人生のようです。『まさか』を単なる下り坂の一種と捉えずに、上り坂へ転じるためのきっかけや気づきと捉えて頂ければ、その後の矯正人生は順風満帆といきましょう。

『後戻り』とは、通常、矯正治療後に、歯並びが元に戻ることを言いますが、上述したように、矯正治療中でも絶えず起こっているのです。また、舌の悪習癖などがあれば、治療中の後戻りの速度は、もっと速くなってしまいます。これらの後戻りの影響を極力排除して、効率よく歯を動かすためには、患者さん自身の継続的な努力が必要なのです。患者さんの協力無しでも、矯正できることが理想ではありますが、現状では厳しいです#3【継続は力なり】というコラムで、患者さん自身の継続的な努力の必要性について詳述しました。そちらも参考になさって下さい。

三百六十五歩のマーチは、1日1歩ずつ着実に歩んで行こうとする、人生の応援歌です。矯正治療も、毎日の変化は、たった1歩で、その変化は目に見えないかも知れません。途中、辛くて、「汗かき べそかき」するかもしれませんが、その歩をとめない限り、必ず大きな変化となります。歌詞に、「きれいな花が 咲くでしょう」とありますが、歯列矯正では、結果的に、"きれいな笑顔が咲きます"。矯正治療が、あなたの人生を輝かせる応援となるよう願ってやみません。

歯列矯正を考えられておられる、あなたへのエールとなるよう、三百六十五歩のマーチの一番の歌詞を、矯正歯科仕様にアレンジしてみました。それでは皆様、一緒に歌ってコラムの〆としましょう!

ワン・ツー ワン・ツー
ワン・ツー ワン・ツー

歯並びに 問題がある
だから治して ゆくんだね
一日一ミリ 三日で三ミリ
三ミリ動いて 二ミリ戻る
矯正は ワン・ツー・パンチ
汗かき べそかき 治そうよ
装置をつけた あかつきにゃ
きれいな笑顔が 咲くでしょう
口角上げて 歯を見せて
ワン・ツー ワン・ツー
絶え間なく 笑え ソレ
ワン・ツー ワン・ツー
ワン・ツー ワン・ツー

#1 手術を併用しないで、1日1mmも拡大できる装置は存在しませんが、三百六十五歩のマーチのこの部分『一日一歩 三日で三歩 三歩進んで 二歩さがる』に合わせて、便宜的な拡大量としました。急速拡大装置を使用しても、最大拡大量は、1日0.5mm程度です。

#2 中学理科で作用・反作用の法則を習いますが、歯列矯正では、この法則を意識して治療方法を考えます。目的の歯をある方向へ動かす場合、作用・反作用の法則に従い、別の歯が反対方向へ動いてしまいます。もし、止めておきたい歯まで動いてしまうとしたら、治療は失敗です。そこで、この反作用による意図しない移動を防ぐ目的で、顎間ゴムの使用をお願いすることがあります。そのような場合に、顎間ゴムを、思うように使用できなければ、開咬や出っ歯がよけいに酷くなります。それは、患者さんにとって、"まさか"な事態と言えましょう。

#3 歯科矯正用アンカースクリューと呼ばれる器具があります。これを骨に埋め込めば、エッジワイズ装置単独では不可能であった歯の移動が可能になりました。また、患者さんの協力が少なくても、後戻りや反作用による意図しない歯の移動を防ぐことが可能です。ただし、子供には使えない(埋め込んでも脱落しやすい)など、全ての症例で、協力不要の矯正が可能になったわけではありません。

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